cinkenzi

掌編小説

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コンビニ 

店長の明夫はレジに立ち、鼻糞をほじりながら、おでんを箸でかき回していた。
今年は寒くなる、つまり、おでんが売れる。
おでんが売れると、他の商品も売れる。
明夫はタマゴを1つ、ツマミ食いをした。
そしてコンニャク、はんぺん、ガンモと立て続けに貪った。
もう止まらない。
仕込んだおでんは半分近くに減っていた。

「遅っせーな、バイトの野郎」
明夫は、夜間バイトのヒロが時間を過ぎてもまだ来ていないことに気づいた。
早く切り上げないと「エンタの神様」が始まってしまう。
いらだつ気持ちが、鼻糞をほじりをヒートアップさせた。
奥深くねじ込むと、明夫の指先に何かが触れた。
デカイ。久々の大物の予感がした。
ヒグマを追い込むマタギのような気持ちで、慎重に作業を進めた。
ここで焦って押し込んでしまうと、全てが終わる。
よしっ、爪にかかった。今だっ! ズボッ。
「ふー、大漁大漁。」
おでんの機械脇に獲物をこすりつけた。

「チーッス」 
バイトのヒロが悪びれるふうもなく、10分遅れでやってきた。
野球帽を斜めにかぶり、ダボダボのパーカー、ジーンズはハンケツになるほどずり下がっている。
典型的なB系。BはバカのBだよな。えっ? 
明夫は心の中で毒づいた。
「遅ぇよヒロ、早く着替えてレジやってくれ」 
「ウィーッス」
やれやれ、コイツは仕事を舐めてるとしか思えん。クビにするか。
明夫はこの店のユニフォームであるオレンジ色のエプロンをはずし、控え室の椅子に座り込んだ。
タバコに火をつけ、首をうなだれた。
重労働とは無縁の世界。作り笑顔と金勘定で一日が終わる。
しかし、それゆえにストレスが溜まる。はけ口が無い。
やることのない店内で、悩みの蟲は明夫の心を蝕んでいく。
売り上げ、借金、逃げた女房、これからのこと。
悩みから逃れるには活動しつづけるしかない。

明夫はタバコを灰皿におしつけ、帰りの準備を始めた。
「エンタの神様」は、もうとっくに始まっている。
客の車が駐車場に滑り込んできた。
車種は赤のアウディ。 んっ?

「おい。・・・レジ変われ」 
「なんスか?」
「変われってんだよ!」 
ヒロを突き飛ばした。
床に脱ぎ捨ててあるオレンジのエプロンに飛びつき、転がり、回転しながら瞬時に装着した。
同時に店の扉が開き、山本モナのような女性が入ってきた。

「いらっしゃっせーー!!!」  

明夫の澄んだソプラノが店内に響き渡った。






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