cinkenzi

掌編小説

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婿

俺は後頭部をしこたま床に打ちつけた。火花がちり、眼鏡が飛んだ。
「あら、あなた!やぁねぇ~」
「いやあ、失敗失敗!」
俺は殺意を押し殺し、ふところの深い男を演じた。

妻の使った空のヘアスプレーが部屋のあちこちに転がっている。
その1つにうっかり足を乗せてしまった。

スーパーハード現状維持タイプ。780円。
妻のヘアスタイルは、わずか1日でこの1本を使い切る。
780円×30日として、1ヶ月で約23400円が彼女の頭に吸収される。
・・・無駄金。
その金があれば、ノリスケ君とこっそりランジェリーパブに行ける。

「あなた~、今度の日曜、デパートに付き合ってくださる?」
日曜?ザケンな。1人で行けや。 ・・・唾液と一緒に飲み込んだ。
「デパートかい~、うんいいよ~。」
「デパートですかぁ、僕もいきますぅ~」
ぜんそく気味の息子、タラオがはしゃいだ。
妻は半年に一度、デパートでヘアスプレーのまとめ買いをする。
その大量のヘアスプレーを山のように抱えて歩くのは俺の役目。
そんなくだらない事に貴重な時間を使いたくない。
言いたい。俺の休息をじゃまするな、と。

妻は頭の「コブ」を維持するため、30分ごとにヘアスプレーを撒き散らしている。
おかげで家の中は、365日、ヘアスプレーの臭い。
飯も不味くなるし、息子の健康にも最悪だ。
花瓶にさした花も10分で枯れる有様。
唯一の休息の場である、便所に入ってもドアの下から、その臭気は音もなく入り込み、俺の排泄物の臭いに打ち勝ち、吐き気を誘導する。
もう我慢の限界だ。羊のような男を演じるのは終わりだ。
偽善者の仮面を脱ぎ捨て、妻の横っ面をひっぱたき、怒鳴りつけてやる。 
そのヘアスタイルをやめろ、と。 キモイと。

でも言えない。俺の立場では言うことができないんだ。

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