cinkenzi

掌編小説

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

本当にあったエライ話

大安吉日午前9時、棟梁の威勢のいい掛け声が青空に響き渡った。
「おおぃ、チョイスギ、バックバック、ライライライー 今だ、えれろ!」
棟梁の刻んだ梁や柱が、大工や鳶の手で寸分狂わず組み上げられていく。
カケヤが振り下ろされ、気持ちのいい音が響く。
「カーン、カーン、カーン、ズボッ!」

その様子を施主は感動しながら見上げていた。
今、夢にまでみたマイホームが形を成しつつある。


・・・何があったかは知らないが。
上棟後、棟梁と施主がケンカ。それもお祝いの席で。
はじめは些細な小競り合いだったらしい。
お互いに酒が入り、次第にヒートアップしたようだ。
とにかく僕が現場に駆けつけた時には、棟梁はサルグツワを噛まされ、たった今、自ら組み上げたばかりの新築の柱にロープでグルグルに縛りつけられ、ぐったりとうなだれていた。
小1時間ほど、獣のように唸っていたらしいが、体力を使い果たしたようで、今はおとなしくお縄についているという。

施主の話を聞けば、泥酔した棟梁がノコギリで柱をメチャクチャに切り刻んだとかで、この不届き者を皆で取り押さえ、柱に縛り付けたという。 
酒乱だとは聞いていたが、まさかここまでとは思っていなかったようだ。

酒乱という仮面を脱ぎ捨て、とうとう狂人の高みまで上り詰めた棟梁。 
めでたし、めでたし。 


スポンサーサイト

タカシ 2

痛ぇぞ・・・

声が聞こえた。
タカシは振り向いた。誰もいない。
確かに人の声がした。気のせいか。
昨日は24をぶっ続けで見てしまったのでロクに寝ていない。
恐らく寝不足が原因で幻聴を聞いたのだろう。
早く24のシーズン3を見たい。早くジャックの暴走に共感したい。
ビデオ屋に向かって歩き出そうとしたとき、足元に違和感を感じた。
お気に入りのコンバースのスニーカー。
靴底に茶色い物体が付着していた。
どこかで犬のクソを踏んでしまったようだ。
道端のクソにも気づかない。まったくどうかしている。
舌打ちを繰り返しながら、こびり付いたクソを地面にこすり付けた。

あやまれ・・・

もう一度聞こえた。今度は幻聴じゃない。
はっきり、「あやまれ」と。 周囲には誰もいない。
数メートル後ろに潰れた犬のクソがひっそりと横たわっていた。
まさか!
タカシは潰れたクソに顔を近づけた。
どこから見ても、ただの潰れたクソだ。目も口もありゃしない。
しかしコイツしか考えられない。
「何があやまれだっ!クソッ!クソッ!」
タカシはメチャクチャにクソを踏みつけた。

ギャアアア・・・!!

クソが断末魔の叫びをあげた。やはりコイツか。
タカシは容赦しなかった。
「誰が誰にモノを言ったんだぁコラァ!!ああ?」
地面のクソに対しインステップキックを繰り出した。気分はベッカム。
紐の部分がクソだらけになった。
お次は空中に放り投げ、ヘディングと見せかけパンチ。
いわゆる神の手。気分はマラドーナ。
手がクソだらけになった。







「ママ、あのお兄ちゃん、なにしてるの?」
「見ちゃダメよ」



タケル

もし、己のいちもつを咥えたら・・・。

制御できない気持ちがあった。
まるで、皮膚の下ですくすく育つ悪性腫瘍のように。
願望、いや、渇望していた。
その先に、いったいどんな世界があるのだろう?

タケルは両足を後頭部にまわした。
背骨をまるめた。 近づけた。

・・・ついに咥えた。


いきなりドアが開いた。

「お、お兄ちゃんっ!何してんのっ!」

いちもつが咽に詰まった。
後頭部にまわした両足の靭帯がちぎれた。
口の中で親の仇のように膨張する、いちもつ。
もはや言い逃れできない状況。
説明したかった。なぜ、こうなったか。
動けない。 薄れゆく意識・・・。



「早くっ!救急車をよんでっ!」
オフクロが泣きながら背中をさすっている。

「タケルっ、大丈夫かっ? 息はできるかっ!?」
親父の叫ぶ声。


遠くで救急車のサイレンが聞こえる。



まぁ、人生なんてこんなもんだろう。

・・・すべてが消えた。


タカシ

タカシは目的もなく、ただ、街を歩いた。
直子と何度もデートした街。クリスマスに向け、いたるところに煌びやかに飾られたイルミネーション。
今は、全てのものが色あせてみえる。

ビルの角を曲がった空き地に、見たことのない建物があった。
終戦直後のバラック小屋のように、屋根も壁も青いトタンが打ち付けられている。
入り口に、玄ちゃんラーメンという暖簾がさがっていた。
何故か、引き込まれるように中に入った。

「いらっしゃっせー!」
スキンヘッドのオヤジが1人。客はいない。
テーブル席は無く、カウンターだけの狭い店だった。

「醤油ラーメン1つ」
「あいよ」

席に座り、タバコに火をつけた。

一ヶ月前。
「・・もう別れて」
そう言い残し、直子は僕の元から去っていった。
何も言えなかった。
行くなよ・・・。本当は叫びたかった。
みじめな男になりたくなかった。


「はい、おまちどー、醤油ラーメン!」

早い。注文してから30秒しか経っていない。
スープを飲んだ。 
・・ぬるいっ! 赤子の離乳食並み。味は醤油そのもの。
タカシは、これは何かの手違いだろうと、訴えるようにオヤジの顔をじっと見た。

「どうだ、スープ旨いだろう?」
カウンターから身を乗り出し、ご満悦な笑顔でオヤジは言った。

・・スープ?何がスープだ。これって、醤油と水だけだろ?
言えなかった。オヤジの笑顔に圧倒された。
「え、ええ、まぁ旨いっす」

「そうか、じゃぁ次、麺食べてみな」

麺をすすった。
・・まじいっ! こ、粉っぺー! 
小麦粉そのものだよ。口の中でパサパサするよ。

「どうだ?旨いか?」 

・・旨いかだって? 
これじゃ、家畜も食わないね。 ・・言わなかった。
「ええ、でもちょっと、コシがないかな、なんて」

突然、オヤジの笑顔が消えた。
猛禽を思わせる鋭い目つきに豹変した。

「ほう、貴様は俺のラーメンにケチつける気か?」

カウンター越しから、オヤジの顔がどんどん接近してくる。
オヤジのシャツの襟首から、チラリと絵が見えた。
よく見ると、オヤジには両手の小指がなかった。

「い、いえ、そうじゃなくて、すごいっ!
この、歯もいらない柔らかさ!噛めば噛むほど団子のように、最後はゴクンとしっかりした喉ごし、 これはまさに麺のトリプルアクセルっすね!」

「そうか。分かってくれれば、それでいいんだ」 


ヤクザなオヤジに激マズラーメン。この状況は、軽くヤバい。
「あたたっ、腹がっ。 いやぁ今朝から下痢気味でしてね、ええ。ご馳走様でした」

「おい。 テメェ、俺のラーメン残すつもりか? お?」

タカシは逃げるように店を出た。 走った。

「貴様ァァー! 絶対に許さん!」
オヤジが鬼の形相で追いかけてくる。


待ち伏せて、レンガで殴りつけた。

「いいかっ、お前のラーメンはこの世のものとは思えないほど不味いんだよ!」
ついに本当のことを言った。 

タカシは全速で走った。走りながら直子のことを考えた。

何故、あの時、言えなかったのか。本当の気持ちを!!
・・まだ、間に合うだろうか?

オヤジのおかげで、何だか勇気が出てきた。

婿

俺は後頭部をしこたま床に打ちつけた。火花がちり、眼鏡が飛んだ。
「あら、あなた!やぁねぇ~」
「いやあ、失敗失敗!」
俺は殺意を押し殺し、ふところの深い男を演じた。

妻の使った空のヘアスプレーが部屋のあちこちに転がっている。
その1つにうっかり足を乗せてしまった。

スーパーハード現状維持タイプ。780円。
妻のヘアスタイルは、わずか1日でこの1本を使い切る。
780円×30日として、1ヶ月で約23400円が彼女の頭に吸収される。
・・・無駄金。
その金があれば、ノリスケ君とこっそりランジェリーパブに行ける。

「あなた~、今度の日曜、デパートに付き合ってくださる?」
日曜?ザケンな。1人で行けや。 ・・・唾液と一緒に飲み込んだ。
「デパートかい~、うんいいよ~。」
「デパートですかぁ、僕もいきますぅ~」
ぜんそく気味の息子、タラオがはしゃいだ。
妻は半年に一度、デパートでヘアスプレーのまとめ買いをする。
その大量のヘアスプレーを山のように抱えて歩くのは俺の役目。
そんなくだらない事に貴重な時間を使いたくない。
言いたい。俺の休息をじゃまするな、と。

妻は頭の「コブ」を維持するため、30分ごとにヘアスプレーを撒き散らしている。
おかげで家の中は、365日、ヘアスプレーの臭い。
飯も不味くなるし、息子の健康にも最悪だ。
花瓶にさした花も10分で枯れる有様。
唯一の休息の場である、便所に入ってもドアの下から、その臭気は音もなく入り込み、俺の排泄物の臭いに打ち勝ち、吐き気を誘導する。
もう我慢の限界だ。羊のような男を演じるのは終わりだ。
偽善者の仮面を脱ぎ捨て、妻の横っ面をひっぱたき、怒鳴りつけてやる。 
そのヘアスタイルをやめろ、と。 キモイと。

でも言えない。俺の立場では言うことができないんだ。

 | HOME |  »

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。